全日本・食学会 ALL JAPAN FOOD ASSOCIATION

      
【開催日】
2015年5月14日(木) 《実施レポート》
【開催場所】
東京・千代田区立内幸町ホール

共通のテーマを東京・大阪の2ヶ所で、それぞれの出演者が語り合う《東西シンポジウム》。

このページでは、東京会場の様子をお伝えします。  → 大阪会場レポート


日本でのお米の消費量の減少、若い世代のコメ離れ、お米を食べないダイエット方法、等々。物質面でも精神面でも日本人を支えてきたお米が今、窮地に立たされています。今回のシンポジウムでは、お米の大切さを再発見、輸出量増加のためにできること、お米の新しい活用方法など、お米の可能性について改めて考えました。


第1部はお米の知識人を招いての基調講演、第2部はディスカッション。

それぞれの会場がどのような様子だったのか、どんなことを話したのか。

レポートとしてまとめましたので、ぜひご覧ください。



<東西共通イベント概要>

名 称: 第2回東西シンポジウム

テーマ: お米の力


<東京会場>

日 時: 2015年5月14日(木) 14:30~16:30

場 所: 千代田区立内幸町ホール(東京都千代田区内幸町1-5-1)

出演者: 大坪研一 氏(新潟大学大学院自然科学研究科 教授):基調講演・パネリスト

村田吉弘 団長(菊乃井):パネリスト

木村周一郎 理事(メゾンカイザー):パネリスト

門上武司 理事長(株式会社ジオード):コーディネーター



第1部 基調講演

大坪研一 氏(新潟大学大学院自然科学研究科 教授)

日本随一の米どころ新潟で、米の品質・利用やDNA判別に関する研究を行う大坪氏に、お米を巡る情勢およびお米の特徴について、各種文献や資料、大坪氏の研究によって導き出された数字などを参考にしながら、基調講演をしていただきました。

■世界の食料事情とわが国の食料自給

世界には栄養が余っている地域とたりていない地域があり、アフリカを中心に栄養不足者が8億人から9億人いると言われています。日本は充分に栄養を取得できている地域ですが、自給率は他の先進工業国に比べても非常に低いというのが実情です。

しかしながらお米を中心とした和食は、

・技能や知識、実践や伝統に係る包括的な社会的習慣

・地域に根ざした多用な食材

・自然の美しさや季節の移ろいの表現

・年中行事とも関連して発展

といったさまざまなメリットがあり、世界に冠たる料理です。


■米の食味とその要因

昔、おいしいお米と言えばコシヒカリでしたが、今は全国でブランド米がつくられています。

お米のおいしさとは、生産農家に関係するものとして品種・産地・気象条件・栽培方法・収穫・乾燥調整。貯蔵・販売に関しては、どの程度、どのような温度で貯蔵したか、あるいは、どのような条件で精米、ぬかを除いたか。また家庭・外食産業に関しては、炊飯条件(洗米・浸漬・蒸らし)によって決まります。一つでも崩れると、お米のおいしさは損なわれてしまいます。


■米のおいしさの評価

さまざまな努力によって食味の向上を目指すお米の評価方法には、人間が食べて評価をする官能検査と、物理的・科学的に測定を行う理化学測定があります。ともにメリット・デメリットがあるため、双方の評価が必要となります。そして、この二つの検査によって、2014年は42ものお米が特Aランクと評価されました。全国でおいしいお米がつくられている証拠です。

■お米の機能性およびそれを活用する用途開発

お米には機能成分、健康にいい成分がたくさん含まれていて、食物繊維も多いのです。

またお米は粒のまま食べますので、粉で食べる他のものに比べて血糖値上層が穏やかで、肥満予防や糖尿病発症にも有効だという機能が認められています。

■米の品種および産地のDNA判別技術

一時期、偽のコシヒカリなどが出回った時代がありましたが、今はDNA判別でブランドを守ることが可能です。バーコードのようなパターンでご飯一粒、お米一粒の品種を判定しています。

このような技術の開発により、不正表示は減っています。


■米粉利用および共同研究の事例

お米そのものの消費拡大が大切であり、利用形態の変更によってお米の消費拡大を図っています。

今までお米は粉砕しにくくグルテンをつくらないので、パンや麺には向かないと言われてきました。そこで新しい特性の米、新しい米粉製造技術、米粉の新しい利用技術を開発し、輸入小麦粉500万トンの10%を国産米粉で置き換え、食料自給率を上げていきたいということを新潟県が全国に呼びかけ、プロジェクトを行っています。


■まとめ

お米は日本の宝物です。水田はお米を作るだけでなく、国土の保全や教育ファーム、都市と田園の交流など多面的機能があり、おいしさという点では和食はもちろん洋食・中華など、多用な食材と調和し、淡泊だけれども毎日食べられるおいしさがあります。健康面でも、肥満抑制や糖尿病予防になり、食べ方も土鍋でじっくり炊きあげたり、米粉利用など多用な方法があります。しかしながら、日本の食料自給率は低く、それを改善していく必要があると思います。私も稲の生産から、お米の加工品製造まで、多くの分野の方々と一緒に連携協力させていただきながら、研究を進めていきたいと考えております。


<記録より発言要約・抜粋>



第2部 ディスカッション

パネリスト

大坪研一 氏(新潟大学大学院自然科学研究科 教授)

村田吉弘 団長(菊乃井)

木村周一郎 理事(エリックカイザー)

コーディネーター

門上武司 理事長(株式会社ジオード)

■学校給食の役割について

村田団長:

食育の基本は給食にあります。バランスのよい栄養摂取の場としてだけでなく、文化を学ぶ場として、京都では米飯給食を勧めています。 また、その土地独特の素材や料理を積極的に取り入れて、その土地の文化を守る活動の一環にもするべきだと考えています。


木村理事:

私も食育の基礎をつくるのが学校給食だと思うので、幅広い食材を使うことには賛成です。

しかし、米粉パンを出すことには疑問を感じます。パンは他国の食文化です。それを理解したうえで、日本独自のパンの発展としての米粉パンという存在はよいのですが、お米の消費量アップを目的に米粉パンを出すというのは違うと思います。


大坪氏:

子どものときからお米を食べ親しんでもらおう。その動きとして米飯給食を進めるのは評価すべき点だと思います。一方でそれに付随して牛乳をやめてしまうとなると、ではカルシウム摂取はどうするのか? という課題が出てきますね。

また米粉を研究すればするほど小麦の利点に気づくのですが、米粉パンと小麦粉パンを選択できるような余地があってもよいと思います。

■お米問題から派生する未来について

村田団長:

日本列島には軟水が豊富に湧き出ています。それに浸かって育つ米があり、米と水でご飯を炊き、米と水でお酒をつくり、米と麦と大豆と発酵微生物が発酵調味料をつくり、豊かな漁場で多種多様な魚を摂取し、山と川によって成り立つ肥沃な大地で野菜を育て、日本人は外国から何も輸入する必要なく長年暮らしてきました。ところが現代の自給率は39%。これから少子高齢化が進み国際競争も激しくなっていくなかで、どうやったら日本国民が飢えずに暮らしていけるのか? を真剣に考えなければなりません。休耕田を減らして、もっと畑を耕さなければいけないと思います。


大坪氏:

私も水田を維持するべきだと考えます。豚や鶏に飼料として米を食べさせると、とてもおいしくなるそうです。飼料米の規格もできましたし、飼料としての利用が今年は11万トンから17万トンに増えています。飼料としての可能性は高く、そこを伸ばして水田を維持できればと思います。


木村理事:

私はフランスパンが専門なので米粉パンを使うことはないだろうと思っていたのですが、実際は小麦アレルギー対策の機能食としてチャレンジしたことがあります。そういう医療食としての、フランス文化とは別のところの、あんぱんのように日本独自のパンの進化として米粉を活用する機会がまた訪れるかもしれません。


■お米問題の解決策

大坪氏:

北海道というのは品種改良の努力が顕著に表れている地域です。昔は寒さのため、おいしいお米がなかなかできなかったのですが、この30年間で26品種ができて、コシヒカリのライバルになっています。育種は時間がかかるのですが、おいしさの面と、赤いお米・黒いお米・硬いお米というようなお米自体の機能性の両面から改良をされています。


木村理事:

さまざまな国でパンを焼いたり出店のお手伝いをしていますが、海外で日本のお米を使っていると、それだけで高級店なのです。海外の人は高いお金を出してでも、日本のよいお米を食べたがっています。ですので、日本のお米を安く海外に出すのではなく、よい品質のものをある程度きっちりと価格をつけて展開したほうがよいと思います。


村田団長:

日本人は自分たちの国のアイデンティティーを取り戻す必要があると思います。

和食がユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、「遺産」です。滅びかけているから遺産としてなんとか保護活動をやらないといけないのです。お米の第一次生産者は大変な努力をされています。しかし、全体の消費が伸びなければ意味がない。

料理人は文化の枠には入れてもらえていませんが、第一次生産者の味方になって、地域のため・公のために働くという意識を料理人自身がもっと持たなければならないと思います。


<記録より発言要約・抜粋>