全日本・食学会 ALL JAPAN FOOD ASSOCIATION

      
【開催日】
2015年11月8日(日) 《実施レポート》
【開催場所】
東京誠心調理師専門学校(東京都大田区蒲田3丁目21-4)


第2回 全日本・食サミット「江戸前~江戸・東京 未来につなぐ食文化~」イベント報告④


■A-③分科会(11:30~12:30)

「江戸前天ぷら」 近藤文夫(てんぷら近藤)・新井均(神楽坂 天孝)

400年もの歴史がある天ぷら。

かつては江戸前の魚介類揚げたものを“江戸前天ぷら”と言っていました。講師である「てんぷら近藤」近藤文夫理事が野菜に着目されたのは、山の上ホテル勤務時代。当時は野菜の天ぷらをお客様に提供すること自体、ホテルの許可が必要なほど、イレギュラーなものでした。そして初めてお客様に野菜の天ぷらを出した際、「これが天ぷら? 野菜じゃないですか!」と言われたそうです。

天ぷらはあくまで「魚介類を揚げた」もの。野菜の場合は精進揚げといって、天ぷらとして認められていませんでした。

しかし春夏秋冬があるものを天ぷらに取りこみ、天ぷらに革命を起こそうと考えられた近藤理事。結果的に現在はそれがお客様に喜ばれており、やってよかったと思ってらっしゃるそうです。

衣も昔は厚いものでしたが、厚い衣だと野菜の香りが出ないので薄い衣に変更。それも最初は「なんだこの衣は?」「衣は厚いものなんだよ」と言われたりもしたそうですが、めげずに続けていたら、今では主流になったそうです。


天ぷらは揚げ物と思われますが、揚げすぎると固くなります。

例えばイカは、中が約60度になると適温。60度にするため、180度の油で20秒ほど揚げ、あとは余熱を使います。その過程を鑑みて、近藤さんは天ぷらを蒸し料理と位置づけされました。

青物は青く。決して焦がしてはいけません。野菜の水分は香りで、その香りをうまく引き立てることが非常においしい天ぷらを揚げるコツだそうです。

天ぷらは衣でコーティングされてしまいますが、色を隠すと衣が香りを覆ってしまいます。

薄い衣だと、香りを引き立ててくれるとのこと。


また、油についてもお話を展開してくださいました。

「てんぷら近藤」は、竹本油脂株式会社の胡麻油を使用。この胡麻油は圧搾製法です。昔ながらの時間をかけてゆっくり絞る方法。しかし、この方法だと2割ほどカスとして残ってしまいます。よって現在はヘキサンという薬品を利用しての溶解抽出が主流です。

「神楽坂 天孝」は、綿実油8割+竹本油脂株式会社の胡麻油2割。「神楽坂 天孝」の初代は、神田猿楽町にある「天政」で修業をされました。そこではもともと胡麻油100%だったのですが、芸者衆に着物に臭いがつくと言われ、サラダ油の最高級・綿実油で天ぷらを作ることを考えたそうです。

天ぷら屋さんのお店で一番違う物は油。どの油が良い悪いという事はなく、それぞれのお店の特徴ですので、そこも楽しみたいものです。

そして、お楽しみの試食は江戸前アナゴ、レンコンとアスパラ。

アナゴは「てんぷら近藤」も「神楽坂 天孝」も、築地の仲卸「山五商店」を利用されていて、この日のアナゴも用意いただきました。

しかし、アナゴはだんだん東京湾では獲れなくなっています。

江戸前天ぷらに欠かせない油と素材。

油は昔に比べ非常に精製法が良くなり、色々な油を選択できるようになりました。

反面、江戸前と呼ばれる「東京湾の魚介類」は漁獲量が減っています。今の子供たちが大人になったとき、天ぷら屋さんがやっていけるのか。

次の時代にどう、江戸前天ぷらを残していけるのかが課題として残ります。


寿司と同じで、天ぷらは非常に個人差の出る調理法です。

粉の作り方、卵の使い方(黄身だけ、全卵利用等)、粉と水と卵を混ぜる順番。

お店によってすべてが違います。そのお店が一番よいと思い選択した素材・方法ですので、

今後はそのような点も一緒に味わっていかねば、と感じるお話でした。


後半は試食の天ぷらを実演していただきながら、実際に揚げた食材を持って席を回り、技術的なアドバイスをたくさんくださいました。

なるべくグルテンを発生させないための、鍋の温度管理の大切さ、最適な油の目安等々。


両店舗でぜひとも天ぷらを味わってみたくなるのはもちろん、教えたいただいたコツを家庭で実演してみたくなるような、そんな講座でした