全日本・食学会 ALL JAPAN FOOD ASSOCIATION

【開催日】
2019年2月24日(日) 10:00~17:00
【開催場所】
大阪ガスショールーム ハグミュージアム(大阪市西区千代崎3丁目南2番59)


2月24日(日)、盛況のうちに幕を閉じた「全日本・食サミット」。

「温度」をテーマに行われたプログラムを紹介します。


全日本・食学会の活動の3つの柱である「研究活動」「交流活動」「発信活動」を網羅する、年に1回にして最大のイベント「全日本・食サミット」も今年で5回目を迎えました。

今回のテーマは、料理に欠かせない「温度」。料理における温度の考え方に始まり、食の適温、温度と香りの関係、低温の調理など「温度」をテーマに、各プログラムを展開しました。

会場となった大阪の「大阪ガスショールーム ハグミュージアム」には、全国から約320人の食関係の方々が集合。それぞれ興味のあるプログラムを選び、講演やデモンストレーション、試食を学び・交流し・楽しみました。


《 開会式と講演 》

開会式で挨拶に立った村田吉弘理事長(左)と門上武司副理事長(中央)特別講演として三國清三理事長代行(右)による「ジビエ」についての講演


《 H-1 料理における温度の考え方

講師:村田吉弘(菊乃井)/川崎寛也(味の素(株)イノベーション研究所)/山口浩(神戸北野ホテル)

日本料理からは村田理事長、フランス料理からは山口理事、そして科学の観点からは農学博士でもある川崎氏が登壇。出演者3人の豊富な知見を交えながら、そして、日仏それぞれの温度に対する違いや共通点などを探りながら、料理と温度について考察しました。

調理の温度、成分と構造を作る温度、温度の感覚、温度の体験という視点から温度を考え、温度によってお客さまにどのような価値を与えることができるのかを提案。開会式直後に行われ、今回のサミットのあり方と方向性を示すプログラムになりました。


《 H-2 適温とは

講師:前田尚毅(サスエ前田魚店)/緒方博行(洋食おがた)/門上武司((株)ジオード)

魚が生息する海水の温度帯から、下ごしらえをする料理人に渡るまでの温度をいかに管理するか。そのことが、料理人の手元に届く魚の状態を大きく左右します。

つまり輸送中の温度管理もかなり重要になるのです。

独自の手法により、魚の旨みを引き出すことで、国内外から注目を集める静岡焼津の魚店店主前田氏が、温度の管理方法とその効果を詳しく解説しました。さらに、京都の食通たちを魅了する洋食の料理人・緒方氏が、自らの知識を披露しながら、前田氏が温度管理をした鰆を調理。参加者全員で試食し、そのおいしさに感嘆の声が上がりました。


《 H-3 高い温度・低い温度

講師:川島宙(akordu)/高橋義弘(瓢亭)/川崎寛也(味の素(株)イノベーション研究所・農学博士)

温度は料理をする上で、素材と同じくらい重要な要素のひとつ。

料理人は、調理の段階で高温から低温まで幅広い温度を適切に使い分けながら、お客さまを満足させるおいしい料理に仕上げていきます。

しかし、ひと口に温度と言っても洋食と和食ではその概念に大きな違いがあります。

このプログラムでは、長年フレンチの料理人として活躍する川島氏、450年続く老舗懐石料理店の15代目当主・高橋氏が、調理の課程における温度の考え方とその効果を披露。両氏が作る洋と和の料理を試食しながら、農学博士の肩書きも持つ川崎氏がその違いを科学的に解説しました。


《 A-1 国・地域による温度の捉え方

講師:中村孝則(コラムニスト)/松久秀樹(Koy Shunka, Barcelona)/高田裕介(La Cime)/松尾英明(柏屋 大阪千里山)

「熱々のお椀は日本人ならではのおいしさ?」 そんな疑問から始まった今回のプログラム。

料理・飲料・空間をはじめ、国によって温度の感じ方は異なります。

スペイン・バルセロナで日本食レストランを展開する松久理事。「アジアベストレストラン50」に選ばれるなど海外での評価も高いフレンチの高田氏。香港に支店を持つ日本料理の松尾理事。3人のグローバルに活躍するシェフたちの話を、「世界ベストレストラン50」「アジアベストレストラン50」の日本評議委員長を務めるコラムニストの中村氏をファシリテーターとして迎え、国や地域と温度との関係を様々な角度から明らかにしました。国際化するお客さまに満足していただけそうなアイデアが満載でした。


《 A-2 生地と温度

講師:西川功晃(サ・マーシュ)/堀井良教(総本家更科堀井)/門上武司((株)ジオード)

パンと蕎麦をつくる上での共通点は生地づくり。季節・天候・室温などによって大きく左右されるのはパンも蕎麦も同じで、その温度をいかにコントロールしていくかが出来を左右します。

一方、パンと蕎麦をつくる上での違いは、焼く・茹でるという作業になります。

このプログラムでは、『パンの教科書』『米粉のパン』など、パンに関する著書も多い「サ・マーシュ」のオーナーシェフ西川理事と、230年続く「総本家更科堀井」の8代目堀井常任理事、日本を代表するパン職人と蕎麦職人が出演。門上副理事長の司会で、それぞれの視点から粉と温度の関係を語り、パンと蕎麦の試食でその共通点と違いを明らかにしました。


《 C-1 冷凍の温度

講師:塩澤隆由(cainoya)/佐伯裕史(さえ㐂)

AIやIoTなど、世の中を変える技術が次々と生まれる現代。食の分野にも技術革新が進んでいます。

このプログラムでは、急速冷凍することで、旬の食材のポテンシャルを落とさずに保存できる新しい技術を紹介。人の手で行うところを新技術に任せることで、人手不足、ハードワークなど、飲食店を取り巻く厳しい状況の改善につなげる・・・そんな提案もありました。

講師は、最新技術を積極的に取り入れ、料理の世界に革命を起こし続ける「cainoya」のオーナーシェフ塩澤氏と、予約の取れない鮨の名店として知られる「さえ㐂」の店主・佐伯氏。

最新の急速冷凍技術で保存したマグロや牛肉の試食を実施。質の高さに会場の皆さんも驚いていました。


《 C-2 油と温度

講師:志村剛生(てんぷら成生)/前田元(MOTOÏ)/高橋喜幸(料理マスターズ倶楽部事務局長)

天ぷらとフランス料理は、最高のおいしさを提供するために使う油の温度をどのようにコントロールしているのか?それぞれ同じ素材を調理・試食することで解き明かそうというのが今回のテーマです。

同じ甘鯛を「てんぷら成生」の店主・志村氏は170℃前後の油で、フレンチレストラン「MOTOÏ」のシェフ・前田氏は200℃前後の油で2種類のソースで食べる揚げ物を調理。会場の皆さんと食べ比べました。

揚げるという唯一の調理法の中で、油の温度を微妙にコントロールする天ぷら。揚げる・炒める・焼くといった様々な調理法や合わせるソースによって温度を管理するフランス料理。油と温度の関係が料理に与える効果について、頭と舌で実感できたプログラムになりました。


《 D-1 温度と香り

講師:東原和成(東京大学大学院教授)/高橋拓児(木乃婦)

「おいしさを感じる要因として、“香り”はとても重要です。食べ物から直接鼻に入る“たち香”と、呑み込むときに喉から鼻へ抜ける“あと香”が脳にサインを送り、おいしさをつくり出します」と、香りに関する著書も多い東原先生が、人間が香りを感じるメカニズムを解説。さらに、京料理の名店「木乃婦」3代目主人・高橋氏が用意した温度の異なる昆布だしで、温度による香りの変化を会場の皆さんと体験しました。

人が香りを感じる仕組みから、香りを作る物質の存在、その物質がどのように温度と反応するかなど、科学と経験の両面から香りと温度の関係に迫ったプログラムとなりました。


《 D-2 人間の熱さ ~若き料理人たちの熱き想い。料理と情熱で地域の発展を考える~

講師

< パネリスト > 糸井章太(Maison de Taka Ashiya)/本岡将(レストラン Bio-s)/川嶋亨(日本の宿のと楽 宵待)

< ファシリテーター > 脇屋友詞(Wakiya 一笑美茶樓)

新時代の若き才能を発掘する料理人コンペティション「RED U-35」で優秀な成績を修めた料理人の中には、地元の自然に向き合い、料理を通じてその魅力を伝えるために、日夜努力を重ねる若き精鋭がいます。

その地ならではの「おいしい」をどうやって表現するか、発信するか、そして、食の力・料理人の力で地域の何が変えられるのか、どうやって変えるのか・・・。脇屋常任理事をファシリテーターとして迎え、都会を離れ、料理で地域を活性化するために努力する3人に思う存分語ってもらいました。

その地に根付き、生産者との関わりの中で奮闘する若者たちの熱い想いを感じることができたプログラムになりました。


《 D-3 提供温度と口中温度

講師:森田恭通(GLAMOROUS co.,ltd.)/檜山和司(ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド)/樋口宏江(志摩観光ホテル)/高岡哲郎(人形町 今半)

料理に関する温度は、皿の上の温度だけではありません。料理自体の温度だけでは計ることのできない感覚的な温度も存在します。

海外でも活躍するインテリアデザイナーの森田氏、2016年G7伊勢志摩サミットのディナーを担当したフレンチレストラン「ラ・メール」の総料理長・樋口氏、そして、「メートル・ド・テル」として「現代の名工」に選ばれた檜山氏といった3名のスペシャリストが出演。

高岡副理事長の司会で、空間づくりのプロ、調理のプロ、サービスのプロの立場から、飲食店で料理を取り巻く温度の重要性や関係性、またその効果などについてトークを繰り広げました。


「シェフ牛」1年先取り食堂

「ポンテベッキオ」オーナーシェフ・山根大助氏(常任理事)/「祇園さゝ木」佐々木浩氏(常任理事)/「創作中華 一之船入」魏禧之氏(理事)

食サミットに登場した『「シェフ牛」2年先取り食堂』が、“1年先取り”に名前を変えて帰ってきました!

「シェフ牛」とは、2017年4月から2020年3月の3年間、JRAの補助金事業として、当学会が推進している「シェフと支える放牧牛肉生産体系確立事業」の略称。肉として利用が少ない乳用種のオス仔牛を、放牧を中心とした肥育方法で大きく育て、その肉質を引き出す熟成と、おいしく食べることができるメニューを加え、付加価値を高めることで、余すところなくいただく(食べる)仕組みをつくるという取り組みです。

今回は、「シェフ牛」を広く知っていただくために、北海道宗谷地方猿払村の丹治牧場で放牧肥育されたブラウンスイス牛を使い、豪快なステーキから、体温まる煮込みまで、9人の料理人たちが腕を振るいました。


サミット・マルシェ

日本各地に息づく優れた食材と、作り手のこだわりに出会えるおいしいマルシェを開催。

Life Organicをコンセプトにした『CA ORGANIC』が無添加・伝統製法・オーガニック・手作りに特化した調味料やお菓子などを販売。『龍岡商店』は選び抜かれたナチュラルな素材を活かしたキムチ専門店。厳選したチーズと季節のキムチとのマリアージュを楽しめました。