全日本・食学会 ALL JAPAN FOOD ASSOCIATION

      
【開催日】
2015年11月8日(日) 《実施レポート》
【開催場所】
東京誠心調理師専門学校(東京都大田区蒲田3丁目21-4)


11月8日(日)に開催しました《第2回 全日本・食サミット》。

今回は、

■A-①分科会(11:30~12:30) 「江戸前寿司」

講師:杉山衛理事(銀座寿司幸本店)

の内容をお伝えします。

杉山理事

「割烹着を着ている方がたくさんいらっしゃいますが(※会場が料理学校の実習室だったので、受講者の皆さまにはコックコートや割烹着といった上から羽織るものを着用していただいていました)、割烹着というのは非常に優れたコックコートです。私が着ている洋風コックコートは袖元が邪魔くさい。料理の基本は清潔さなので、コックコートの袖は必ずまくりましょう。時計や指輪もいけない。最近はピアスの穴を開けている人も多いですが、仕事中はだめだと言っています。


僕たちはお客様の口に入るものを扱っているので、衛生には充分に気をつけなければなりません。しかし、江戸の時代は今のように氷や冷蔵庫はなかったので、さまざまな工夫をしてきました。お酒に漬ける、生姜やワサビ、折詰の笹など。


また、昔のおにぎりはとても固く握られていました。ふんわりと握った方がおいしいのにどうしてでしょう? それは空気を抜くためです。空気に触れる面が多ければ多いほど菌は増えてしまいます。ですので、昔の折詰は隙間のないようにギュウギュウに入れてありました。飾り葉なんかも、見た目をきれいにする効果もありますが、空気に触れる面を少なくする知恵でもあります。


ところで、握り寿司はいつ頃からあるのでしょうか。

日本の古い文献には鮒寿司を大和朝廷に献上した、という記述が残っています。

昔の人にとってタンパク質は非常に貴重でした。海の近くであれば魚、山なら猪や兎を捕まえて食べればいいですが、今のように道具が発達しているわけではないので毎日は取れない。1週間に1回、もしかしたら1ヶ月に1回程度しか取れない時代もあったかもしれません。ですので、保存という考え方が生まれたのです。

そこで塩で漬けたり、乾燥させたり、発酵させたり。おいしく食べるというより、まずは腐敗させない、どうすれば長く保存できるかが大事でした。


江戸時代になって登場したお寿司は、押し寿司系です。これが江戸時代の前期から中期に出てきました。しかし、そのうち熟成させるのに1週間も10日も待てないよ、ということで、「早熟れ」と言って3日間ほどで熟成するお寿司が出てきました。

そして、今のような握り寿司が出てきたのは江戸時代の最後の方。江戸幕府が終わるたった80年ほど前のことです。華屋与兵衛さんが考えたと言われます。


なぜ、早熟れよりさらに短い期間で熟成ができるようになったのか?

それは、お酢の誕生です。現代のようなお酢が庶民でも買える環境が整ったからです。

なお、今のようなカウンター形式のお寿司になったのは関東大震災以降。それまでは、折詰が主流でした。


今日は、太巻きの実演をします。

江戸前の握り寿司が栄えた江戸の後期、自分のお店の得意な味で、各店がオリジナルの太巻きを作っていました。銀座寿司幸本店の開業は明治18年(1885)ですが、江戸スタイルのままの太巻きです。130年前とほとんど変わらない味です」


■ 太巻きの実演

皆さん、杉山さんの手元が見える近くに集まり、熱心に実演をご覧になっていました。

※プライバシー保護のため、一部画像の編集を行っています


■質疑応答

Q:どこのお店の海苔を使っているのか?

A:(寿司幸と)同じく4代続く海苔店で、130年間ずっと同じ海苔店です。


Q:お寿司専用のお米はあるのか?

A:よく聞かれるのですが、50年ほど前までは、お寿司にはよいお米を使いませんでした。上に乗る魚の味が濃いので、強い味のお米は不要だったのです。

しかし、最近のお寿司のご飯は江戸時代の4分の1程の量しかありません。ですので、よいお米にして味を出さないとバランスが取れません。

ただし新米は水分が強いので、自分のところでは節分くらいまでは古米を使います。


Q:お米は自分が好きなものを選べばよいか?

A:人には好き嫌いがあります。個人の感覚で、自分が作るお寿司に合うものを選んで使えばよいです。人にすすめられたから使うのではなく、必ず自分で食べてみて自分で選ばなければならない。プロは自分で選別できる目と舌を持つことが大切です。


Q:海外は流通時の温度など衛生管理が厳しいが、日本で規定はあるのか?

A:日本には今までありませんでした。なぜなら、100年、200年かけて培ってきた感覚や実績があるからです。その証拠に寿司屋でも弁当屋でも、ほとんど食中毒がありません。

しかし、急に生ものを食べるようになった国では食中毒が出る。扱い方がわからないからです。

そのため、国で基準を設ける必要があります。しかし、現在の日本も同じような流れになっています。10年、20年と修行するなかで学んでいたことを、今は1年や2年で覚えさせようとしているので、感覚が育たないからです。残念です。

また、今は外国の人もたくさんお寿司を学んでくれますが、小さいころからの食べ物に対する衛生観点が違うと、なかなか伝わらないことが多いです。違うのがだめという事ではなく、それも感覚的・習慣的なもので、調理学校の先生方も苦労されているのではと思います。



江戸前寿司の成り立ちから料理人としての矜持まで、ご参加いただいた一般の方からプロの方まで楽しめる内容を、江戸っ子らしいユーモアも含めてお話しくださいました。