全日本・食学会 ALL JAPAN FOOD ASSOCIATION

      
【開催日】
2015年4月12日(日) 《実施レポート》
【開催場所】
岐阜・学校法人石井学園城南高等学校


日本全国の料理学校をめぐりながら、著名料理人を講師に行う《全国料理学校勉強会》。

第2回となる今回は、岐阜市の学校法人石井学園城南高等学校で開催しました。

テーマは『食の現在・過去・未来「地方発信」』。

料理デモンストレーション、パネルディスカッションの2部構成で、参加者の皆さんにおたのしみいただきました。


それぞれどのような様子だったのか、どんなことを話したのか。

レポートとしてまとめましたので、ぜひご覧ください。

<イベント概要>

名 称: 第2回 全国料理学校勉強会

テーマ: 食の現在・過去・未来「地方発信」

日 時: 2015年4月12日(日) 13:00~15:30

場 所: 岐阜・学校法人石井学園城南高等学校


出演者:

第1部 デモンストレーション『発信力のある料理』

音羽和紀 氏(オトワレストラン/栃木)

村田吉弘 団長(菊乃井/京都)


第2部 ディスカッション『地方発信とそのアピール方法』

音羽和紀 氏(オトワレストラン/栃木):パネリスト

村田吉弘 団長(菊乃井/京都):パネリスト

高田晴之 理事(たか田八祥/岐阜):パネリスト

門上武司 理事長(株式会社ジオード):コーディネーター



第1部 デモンストレーション『発信力のある料理』


音羽和紀 氏(オトワレストラン/栃木)

「プレミアムヤシオマスのティエド オリーブ・ヴィアンド」

ヤシオマスは栃木県水産試験場でマスを品種改良したものですが、今日はさらにうま味成分の多いプレミアムヤシオマスを使います。オレイン酸という脂質が多いほうがうま味は増す、そういうマスです。三枚におろし、背側と腹側に分け、背側は塩でマリネして1~2日置きます。その後皮を取って、オリーブオイルのなかでコンフィにします。スチコンに入れ、65℃で芯温37~38℃になるまで火を入れます。魚は火を入れ過ぎるとパサパサになってしまうのですが、これは絶対間違いなくしっとりして、生臭さもあまりないと思います。腹身は生から燻製にします。

うちのグラス・ド・ヴィアンドは、鶏からとっています。利点はすごく軽い。野菜と合い、魚とも合います。以前は、川魚を使うときに独特の臭みをとるため、ほうじ茶を混ぜていました。栃木県の那須烏山、那珂川あたりはお茶の産地なのですが、今はある生産者がつくっている紅茶を抽出したものを使っています。少しの苦味と、独特のさっぱり感は油を使った料理との組み合わせが良い。素材を殺さず、大事にするソースです。


それから、日光湯波を使っています。軽く燻製すると、パリッとして、香りもつきます。テクスチャーと味、そういうものをひとつの料理のなかに組み合わせています。それと、地元産のかき菜、しいたけ。栃木のかき菜は少し辛みのある野菜です。さっと茹でて冷水にとります。根本の部分も太いところ以外は入れて、全部細かく切っておきます。しいたけは少しの油で火を入れます。これを同じように細かくします。かき菜としいたけに、松の実を合わせます。なぜ、かき菜やしいたけを使ったのかというと、ヤシオマスにはかき菜や細かく切ったきのことの相性が良いと思って合わせています。皆さんどうでしたか?

(会場の声)「大変おいしいです!」


低温調理については、私がフランスで修業した1970年代、ア・ラ・ヴァプールという蒸す料理は限られたシェフしかやっていませんでした。今はスチコン(スチームコンベクションオーブン)があるので、フランスはもちろん世界中で行われています。私が初めて使ったスチコンは、小さい筒状のなかに蒸し器のある、本当に貧弱なものでした。それから道具や機械はどんどん進化しています。便利ではありますが、理屈がきちっとわからないとおいしい料理ができないので、私は何でも機械化しようとは思いません。ただ、明日を考えるとき、安定度があることはものをつくるうえで大切です。そういう面では、道具や機械をよく考えながら使うというのは、非常に重要になるのかなと思います。


私がアラン・シャペル(※1)から学んだのは、食材をよく見て、その香りの魅力を感じ、唇や舌で味わう、視覚、嗅覚、味覚です。それらを身体のなかによく叩き込んでいかなきゃいけない。そういうことを教えてもらいました。それに素材を傷めない調理法、素材を本当に生かせる調理法をいろいろ考えて、よく理解して料理する。いろんな機会に試食し、時にはつまみ食いをし、身体で理解していくというのはすごく大事なことです。また、そのデータをいかに自分のなかで広げられるか。


34年前、私は明らかに「必要だ」と思って宇都宮に戻りました。そのとき自分に誓ったことは、“テロワール”というのですが、その土地にある素材や生産者さんたち、関係者やお客さんたちも含め、そして自然とコラボして信頼関係を築いていくことでした。そうすることが地方都市で店をやっていくうえで最も重要なことだと思ったのです。でも、それをちゃんとやるのは非常に難しく、思い入れがあっても店として成功させないと消えてなくなってしまう。いいものが継続しない。それは私にとっても残念だと思いますから、絶対に失敗をしないことが肝要です。


私たちのフランス修業時代は、その店に行かないと情報がなかった。私はアラン・シャペルに会って初めてアラン・シャペルのことがわかった。今はいろんな映像を観たり、出版物を読んだり、あらゆるものを自分たちで食べに行ったりと、いろんなことができる時代になりました。そういう面では昔のように自分の修業したことだけが勉強じゃなく、いろんな形で学べるようになりました。もちろんその店、その土地、そこで学ぶということはベストだと思いますが、それ以外のいろんな方法でも学べます。フランスであろうと、都会であろうと、たとえ片田舎であろうと、自分の立っている場所のことをよく理解・精通して、きちっと活用する。そういう時代になっていて、これからをすごくたのしみに思っています。


<記録より発言要約・抜粋>


※1 アラン・シャペル フランス料理界に偉大な功績を遺した、フランスの料理人。「厨房のダ・ビンチ」「フランス料理界の巨星」「料理界の哲学者」と呼ばれた。


村田吉弘 団長(菊乃井/京都)

「木の芽豆腐」

僕は、食べ物と場所と人と文化がうまくリンクしたときに、初めてそこに素晴らしい料理ができると思います。調理は科学ですから、どこの国に行っても技術は世界共通です。そこで料理人にとって一番肝心なのは、考え方だと思っています。自分なりに自分の地方をどのように考えているか、どのような思いで地方にある生産物を捉えているか問わなければいけません。料理はメッセージ性が非常に高い。おいしい食材があるからぜひ食べてください、というだけでは、もう済まない時代になってきた。そこに料理人からのメッセージ、そこの地方からのメッセージをどれだけ盛り込めるかが、肝心だと思います。


料理人は料理が一番と思いがちですけど、お客さんが求めているのは本当に料理かどうか。何を求めて来るのか。時間ですよね。2、3時間、違う空間にトリップして、食事をしながら向き合い、いつもはできないような話をして「これおいしいな」とコミュニケーションをとるために食べに来ている。帰り際、本当は「久しぶりにいい時間を過ごさせてもらった、ありがとう」というのを、「ごちそうさま」という言葉に代えるわけです。それを、おいしいものを食べに来ているのだと思って、料理人はおいしいものばっかり求める。お客さんが願っているものと、店が出したいものが違うとよろこんでもらえません。そこで、お客さんが求めるものを知るために、今までとは違った考え方、調理場のなかだけではわからないものの考え方をいろいろ勉強しなければいけない時代に入ってきたと思います。料理人は総合プロデューサーになっていかなければいけない。


本日は、今年やりだした料理です。「濃久里夢(こくりーむ)」というものが不二精油株式会社から出ています。豆乳をすごい遠心分離機で回しますと、クリームみたいな豆乳ができます。これは非常に新しい素材で、にがりを加えると固まります。泡は立ちませんが、クリームと同じような扱いはできます。これで今、お菓子もつくっています。今日はこの濃久里夢と普通の豆乳を混ぜます。にがりを入れ、85℃に上げれば反応が始まって固まります。蒸し器で蒸せば誰がやっても同じように固まります。


これは木の芽。春になると木の芽の香りが良いです。これはほうれん草。うちでは茹でるだけで使います。こちらは炊き味噌。白味噌を生で使うことはあまりなく、酒を入れて元の硬さになるまで炊きつめて、冷蔵庫に入れています。つぶつぶの状態を滑らかにするため、パコジェット(※2)を使います。


豆腐の上に乗せていくものですけど、ふきは湯がきます。クロロフィル(葉緑素)は銅に反応しますから、あらかじめ醤油を塗っておいた銅鍋で湯がきます。よく塩を入れると言いますが、塩を入れても意味がありません。というのは、葉緑素の安定のためには塩化マグネシウム、つまりにがり成分がいるんです。いまの精製塩には塩化マグネシウムは含まれていませんので、にがりを入れたほうがうまくいきます。にがりでなくても、この方法で湯がくとふきが茶色になることがなくなります。塗っておいた醤油がにがりの代わりにつなぎの役割を果たします。


他に入れるものは、たけのこです。たけのこは下茹でしてから炊いて、追い鰹をしています。山独活は生です。わらびは灰をまぶして湯をかけてから、八方地に漬けています。たらの芽も八方地に漬けています。ここで山菜の香りを生かすために、独活とふきは八方地に漬けません。独活は、生で剥きたてを食べると香りが鮮烈ですけど、これを湯がくと、香りが飛んでしまいます。


料理を印象に残したい場合は香りとテクスチャー。日本人の場合はテクスチャーが非常に肝心で、「もちもち」とか、「しゃきしゃき」とか、味とは関係ない。関係ないんですけど、もっちりしてておいしい、と思う。こんなにたくさんのテクスチャーに対する擬音語がある国は日本しかないです。


豆腐ができあがりましたので、上にちょっとゆるめにした木の芽味噌をかけます。ここに春の野菜ですね、独活、湯がきたてのふき、たけのこ、たらの芽、こごみ、わらび、木の芽を盛りつけます。これを出すと、お客さんに「まるで春の野のようだなあ」と言っていただけます。食べたら春の野を感じるような味になっていたら「ああ、春ですねえ」とよろこんでくださるでしょう。それで食べたものは何か、わずかな山菜と豆腐と味噌ですけど、料理としては成立している。伊勢エビ一匹より勝るかもしれません。


<記録より発言要約・抜粋>


※2 パコジェット 冷凍粉砕調理機。強力かつ微細に加工・調理が可能。



第2部 パネルディスカッション『地方発信とそのアピール方法』


パネリスト:

音羽和紀 氏(オトワレストラン/栃木)

村田吉弘 団長(菊乃井/京都)

高田晴之 理事(たか田八祥/岐阜)

コーディネーター:

門上武司 理事長(株式会社ジオード)

■ 岐阜での開催について

高田理事:

全日本・食学会の比較的早い機会に岐阜まで来ていただいたことは、本当にありがたいことで、私も会員でありながら非常に感謝しております。こうして直に伺いますと、地方で発信をしている志は同じだな、共通点が多いなということを一番に感じました。料理のジャンルや地域は違っても、やはりアイデンティティがあってこそのことだなと。


■ 地元で店を開いた理由について

音羽氏:

地元でやろうというのは、ヨーロッパに発ったときにはまったく思っていませんでした。でも修業の半ばでいろいろ気がついたのは、皆さん自分のいる土地をすごく愛して、誇りに思っている。それがものすごくショックで、自分の今までの考えていた店づくりとまったく違う。一から東京でやろうと思っていた自分が、「待てよ」と思ったことが田舎に戻ったきっかけですね。また、見方を変えてみると、地方はやはりその土地の普段の付き合いを自分で受けとめて接しなければいけない。でもちゃんとすれば、時間はかかりますが少しずつ顧客はついてくる。実は、30年以上のお付き合いのお客さんがかなりいます。小さいころご両親に連れてこられたお嬢さんや息子さんが大きくなり、なかには三代に渡っての関わりがあります。非常にありがたいですね。


■ 郷土料理の盛衰・地元生産者との関わり

村田団長:

地方の野菜はその地方で消費され、郷土料理を盛んにしていました。郷土料理を衰退させないためには、地方野菜が重要なんです。自分たちの地方都市を活性化させるためにも、自分たちの都市の周りに第一生産者が生活できる環境をきちんとつくられているかは非常に重要だと思います。


音羽氏:

地元に戻ってからいろいろなお声がけがあり、私自身も生産者と触れ合うことも多かったのですが、単純にお付き合いというのではなく、必要なものを共有したいという気持ちでずっと接点を求めてきました。少しずつですけど、よそから来る方と自分たちが今やろうとしていることが結びついてきているなと感じています。でも、知られているようでまだまだ知られていなかったり。僕は、全部オープンにして、みんな地元のものを使おうじゃないかと料理人に声をかけてきました。


村田団長:

地域の料理と地域の野菜は密着しているので、それを守る。滅びるものは放っておけばいいなんて、本当にそうか。何か他の力が働いて、滅ぼそうとしているのではないか。その警鐘を発して運動を進めるのは、料理人からでないと具合が悪いでしょう。いつでも食材に関わりあって、商売もそれに関係のある料理人が団体で声をあげて進めていかないと、世のためにならない。料理をやっている理由は何なのか。社会的責任とか使命とかって志がなければできません。「やらなければならない仕事があるのではないか」と京野菜を復興させようとしているときも思っていました。


■ 人と人との関わり

高田理事:

今日もそうなんですが、交流を図ると、やっぱり学ぶことってすごく多いと思うんですよ。本当にパワーをもらえるんですよね。パワーをもらったなかで、自分の今までの経験値をフィードバックして、スキルアップできるのは、やっぱり人と人の関わりだと思うんです。そのへんが今一番自分としては感じています。


<記録より発言要約・抜粋>