全日本・食学会 ALL JAPAN FOOD ASSOCIATION

      
【開催日】
2015年11月8日(日) 《実施レポート》
【開催場所】
東京誠心調理師専門学校(東京都大田区蒲田3丁目21-4)


第2回 全日本・食サミット「江戸前~江戸・東京 未来につなぐ食文化~」 イベント報告⑨


■C-①分科会(15:15~16:15)

「初代から次世代へのメッセージ1」

熊谷喜八(KIHACHI)

私は8年前に社長を退任し、現在はサザビーリーグ・アイビーカンパニーの最高顧問として経営からは遠ざかっています。

「KIHACHI」は私がちょうど40歳のときに起業しました。最盛期には約80店舗、1500名近くの人を抱えていましたが、人材が一番難しいです。

もともと、世界でナンバーワンと言われているジョエル・ロブションというフランスのシェフに付いた日本人の一番弟子です。本来であれば彼の意志を継いで料理を作らなければならないのですが、フランス料理は毎日食べられるものではない。なので、毎日食べられるようなフランス料理を作ろうと思いました。

特に35年ほど前に台湾の台北市に出店する話が転機になりました。

台北と日本の意識がまったく違うのです。生野菜や刺身は食べない。ワインもクリームもない。肉は固い。そのような環境でフランス料理を作るのは難しい。挫折しました。

この挫折が、日本の食材でもできる日本最高の洋食を作ろうというきっかけになりました。


(他の方の講座では)食材の話をされていますが、私は料理人と同時に経営者です。特に私の店は規模が大きい。お客様がどのような動機で来店されるか、よほどの戦略が必要です。ランチ時の銀座で女性が求める料理は? 夜は? フード戦争です。いろいろと戦略を立てて、そのなかでどれが最強かを考える必要があります。

レストランウエディングやデパートでの物販も同じく戦略が必要です。どの時間か? 気候はどうか? という細かいことを、商売であれば分析しなければなりません。


また、我々の商売は「厳しい」「苦しい」「汚い」というキーワードから始まり、次に「経験」「勘」「コツ」、そして最後は「経営」「教育」「管理」となります。「経営」と「管理」は勉強すれば大体のことがわかりますが、「教育」に一番苦労します。100人スタッフがいたら100通りの対処が必要。私の座右の銘は連合艦隊司令長官・山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」です。やはりリーダーたる者、自分がお手本を見せる必要があります。それと怒れない上司というのは難しいです。最盛期の1500名近くのスタッフの中には250人くらいの料理人がいましたが、まずは自分が先頭に立ち、背負って引っ張っていきました。気持ちも力も必要です。

次に、商品をどのように考えつくのか? ですが、働いている方は意外と野菜を食べる機会が少ないので、まず野菜を考える。それから年齢、旬を感じるもの、そして日本人には必要な四季感。あとは素材の良さを充分に生かす工夫。そしてコスト。それらが時代にあっているのか、も必要です。

日本人は器用なので、どんな料理も本物にしていきます。しかし少子高齢化の時代に突入し、それに合わせた設定をしていかなければならない。そのあたりの分析が一番難しいです。

もちろんプロが作るのだからおいしいのは当たり前。清潔感であったり、サービスであったり、食器のセンスであったり、人間の五感に訴えかける付加価値が大切です。

それから価格設定もしっかり構成する必要があります。



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■質疑応答

Q:これまでの経験で、次世代のイタリアン経営者にこれだけは! というアドバイスをお願いします。

A:英語力が絶対必要です。通訳を介さず自分の言葉で英語を話すこと。それとパソコンでのやりとりが英語でできること。日本のなかで成り立っていることは非常に限られています。

そして感性。最後は人間性です。


Q:今まで苦労されたこと、失敗されたこと、あるいは学んだもっとも大きいことを教えてください。

A:「できること」と「可能性のあること」は違います。できることを積み重ねることで、可能性のあることができるようになる。

それと人ですね。優秀な人は独立します。それを想定して会社を作っていかないと難しいです。



料理人であり、経営者である熊谷理事の経験に基づいた含蓄あるお話が続いた1時間でした。